むか~し昔。
そうじゃのう、13世紀くらいのことじゃったか。
モンゴルにチンギス・ハーンという英雄が現われての。
どんどこ領土を広げまくった結果、地上に巨大な帝国が現われたのじゃ。
この帝国の支配下にあっては、あらゆる宗教の共存が認められておった。
ゆえに、現代では絶え間なく紛争が起こっておるような地域でも、
平穏な暮らしがあったのじゃ。
にわかには信じがたいがのう。
これを
『パクス・モンゴリカ』。
『モンゴルの平和』という。
ほれ、有名な旅行家がおったじゃろう。
イヴン・バットゥータ。
彼らも、この帝国の恩恵にあずかって、長い長い旅をすることができたのじゃよ。
こうして、人が安全に自由に往来することができ、
進んだ科学技術や珍しい品物や食べ物が、シルクロードを通って行き交った。
あちこちで文化の花が開いた。
そうしてイタリアのルネサンスにつながるのじゃな。
★ ★ ★ ★ ★
この平和は『良きもの』ばかりではなく、『悪しきもの』をもたらしました。
「黒死病」。
ペストです。
今、世界中でコロナが猛威を振るっています。
それにつけて、よく引き合いに出されているのが
ヨーロッパを恐怖に陥れた、14世紀のペスト禍。
発生源は、はっきりとはしていませんが、
中央アジアではないか、という説があります。
昔の中国の記録に『悪疫が流行った』とありまして、
それがペストではないか、と推測されているのです。
▇ 病気の伝播。
◇1334年:浙江流域で悪疫がはやり、500万人が死んだ
◇1341~2年:おそらくイランに到着。
◇1347年ころ:エジプトまで到達。
シリアを旅行していたイブン・バットゥータが、
『ガザで疫病が流行している』
という報せを聞いたのが1347年ころ。
1日の死者は1000人以上。
ガザはほぼ廃墟のようになってしまったそうです。
▇ 何が病気を運ぶのか。
もともとペスト菌を持っていたのはネズミ。
病気のネズミの血を吸ったノミがペスト菌を人に移す。
だから、
「ネズミが悪い」
ということになっています。
ところが、これには少々疑問があるそうです。
ペストは何回も流行しています。
現代では《アウトブレイク》の前に、
しばしばネズミの大量死が確認されているそうなのです。
けれど、中世の記録には《アウトブレイク》の前に、
「ネズミが大量に死んだ」
という記述が見当たらないのだそうです。
中世に大流行したペストは、誰が運んだのか。
菌を持ったノミはどこからどこへと飛び移ったのか。
◇ 感染したネズミ → 人
◇ 感染した人 → 人
ネズミが媒介する場合と、人が広げる場合では、
広がり方のパターンが違うらしいです。
そのパターンを学者さんが統計学的に研究なさった結果。
※ディーン氏とシュミッド氏の研究 ↓
つまり、ペスト菌を運んだのは人なのでした。
衛生観念が発達した今日、
現代人はノミやシラミをくっつけておりません。
ですから、腺ペストが流行したらネズミのノミが原因でしょう。
**ペストは二種類あるよ**
腺ペスト:菌を保有するネズミなどのげっ歯類からノミを介して感染する。
肺ペスト:咳などによる飛沫感染でヒトからヒトに伝播する。
腺ペストから続発する場合もある。
**************
感染する病気がどこで発生しようと、何に由来しようと
ひとたび人が病気の素を持ってしまったならば、
それを広げるのは人なのですね。
平和な世に、自由を謳歌する。
ありがたいことです。
しかし、こういう落とし穴もある。
『歴史に学ぶ』
良いことも悪いことも、学んで、目の前の危機を乗り越える。
人には、その力があると信じましょう。