城に戻ると、月明かりの中、庭園の四阿でシュリーパドマが小さなヴィーナを爪弾いていた。姫の体格に合わせて作られた小ぶりの五絃琵琶である。その向かいで仲の良い老夫婦が、とろけそうな、幸せな笑みを浮かべて聞き惚れていた。
スヴァヤン・ヴァラ(婿選び式)の夜にシタールを弾いていた姿を思い出す。あの大きな楽器は姫の手に余るように見えたが、今、なだらかな曲線を描く細い首の琵琶は姫の心のままに軽やかな明るい音で歌っていた。沙羅の花がほろほろとこぼれるような、聴く者の心を温かくする音色に、つい足を止めて聞き入ってしまう。
ハルシュは団らんを邪魔しないよう少し離れて木の幹に寄りかかり、しばし耳を傾けた。
☆ 『天竺花語り』P119~
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古代インドを舞台にした物語で、
主人公のシュリーパドマ姫が、琵琶を弾いている場面です。
こっぱずかしいですが、引用…(°_° ///
あの物語の中で、主人公に楽器を演奏させたかった。
*軽やかに跳ね回る少女に似合うもの。
*お姫さまが手にして絵になるもの。
得意な楽器を何にするか考えたときに、
真っ先に浮かんだのがこれでした。
※読み方:らでんしたんごげんびわ。
学校で使う「日本史年表」の表紙に写真が載っていたりします。
当時の物としては、世界に唯一残る五絃琵琶です。
他の琵琶たちは弦が四本。
*五絃琵琶:インド起源。頸(くび)がまっすぐ。
*四絃琵琶:ペルシャ起源。頸がかくっと曲がっている。
同じような楽器でも、出身が違うのですね。
すると弾き方も違うな。
今、琵琶の演奏には大きな撥(ばち)を使うけれど
インド由来なら五絃琵琶は指で弾くのかな。
中国経由で伝わったから、日本では撥を使ったかな。
どんな人が弾いたんだろう。
どんな音がしたんだろう。
ああ、シルクロード…(ー_ー
なんだかこう、しみじみと感動しました。
そういうわけで、物語の中では
西域出身の母を持つ王子さまに、四絃琵琶を持たせてみました。
さて、奈良時代に日本に伝えられた五絃琵琶。
平安初期以降、伝統がぷっつり途絶えてしまいます。
楽譜も現存するのは陽明文庫に伝わる「五絃譜」のみ。
美しくもミステリアスな楽器なのです。
もったいつけていてもアレなので。
お写真をどーん\(°▽°
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
この螺鈿細工を担当した職人さんが、
なぜ四絃琵琶を弾く人を描いたのか。
それもミステリアス。
実はこのお写真の琵琶、現物ではなく模造品です。
模造品、レプリカ、というとよいイメージがないかもしれません。
けれど、これは違いますよ。
大事な宝物を保存し続けるためには、修理も必要になります。
本格的な模造製作が始まったのは、明治時代。
奈良で開催された博覧会が機になったそうです。
昭和47年(1972)からは、
*宝物の材料や技法。
*宝物の構造。
これらを忠実に再現することに重点が置かれました。
製作するのは、人間国宝ら伝統技術保持者。
熟練の技と最新の調査研究の成果が融合しまして、
芸術の面からも、学術的な面からみても
とにかくスゴイらしい☆(°▽°
ああ、見たいなあ。
見られるらしい☆(°▽°
奈良国立博物館での展示は
2020年7月4日(土)~2020年9月6日(日)。
その後各地を巡回する予定なので、遠方の方は要チェック。
そして、さっそくフェリシモさんが…。
早いわあ(°▽°;
そしてすでに注文殺到。
ほんとに早いわ。
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黒い空に半月がかかっている。その淡い光が、アルジュナの白い横顔に影を落とす。
琵琶が澄んだ音を立てる。二つ、三つ、四本の弦を弾いて調べを整えると、アルジュナは手を下ろした。
暗い水の上に夜開性の青い蓮が大輪の花を咲かせ、甘い香りを放っていた。この花たちは、暁の光が空を染める頃になると蕾を固く閉ざす。
『母上、何を見ているの?』
小さな子どもの声がする。これは幼い自分の声。母がまだ生きていた頃の。
『あの青い蓮を』
母はどんな顔をしていたのだろう。もう記憶の底にも残っていない。
短い夏の夜。彼は白い象牙の撥を手に取ると、長い曲を弾き始めた。
☆ 『天竺花語り』P131~
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^・ω・^n いつもありがとうございます、なの。