陰暦の五月五日午の刻に降る雨には薬効があると言われます。
午の刻というのはお昼の12時ころになりますね。
この雨に濡れると「その一年は病気にかからない」のだそうです。
さらにさらに、この雨水が竹の節に溜まると『神水』になります。
薬を作ったり、薬を溶いて飲んだりすると効果抜群。
万病に効くお薬ができたりするとかなんとか。
端午の節句は薬の日。無病息災を願う日なのです。

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ねこ森町では端午の節句の準備で大忙し。
魚たちがスピードを競い、滝を登って龍になるというレースが行われますし。
レースの後には猫たちが楽しみにしている大イベントがあります。
フライハイ。
あらたに誕生した龍の背中に乗って、ねこ森町の空を駆けるのです。
そうしてたっぷり遊んだ後にはいつものどんちゃか祭り。
食べて飲んで歌って踊って、夜の宴が開催されます。
ああ、楽しみ。
ねこ神社の境内には色とりどりの可愛い薬玉。
飾りつけをしていた猫たちの耳に不気味な笑い声が聞こえてきました。
「うっふっふっふ、ほっほっほ」
思わず見合わす顔と顔。
本殿の中から聞こえるということは、羽巣手戸さまのお声です。
目顔で語り、頷き合って、一番年長の猫がそっと戸に手を掛けました。
「あのう、羽巣手戸さま」
そろりと隙間から覗く本殿は真っ暗け。羽巣手戸さまは真っ黒け。
どこで何をしていらっしゃるのでしょう。きょろきょろ。
「おお、お前たち。よいところに来ましたね」
ばばーん。

猫たちの鼻先に、羽巣手戸さまの大きな目がきら~ん。
羽巣手戸さまは扉の真ん前にいらっしゃったのでした。
「ひいいい~」
おや、誰かが腰を抜かしましたよ。
まあ羽巣手戸さまはそんなことお構いなしなんですけどね。
「羽巣手戸さま、それなあに♪」
好奇心いっぱい、きなこちゃんの目は羽巣手戸さまの頭上に釘付けです。
そこにあったのは金冠などではありません。
緑色のジョウロです。
「ふふふ、聞いて驚け。このジョウロはな」
羽巣手戸さまは心持ち胸を張りました。
ぐらりとジョウロが傾きます。あわててマオさんが手を添えました。
「天の秘宝。神水を降らせる恵みの恕雨露なのだ!」
ぽかーん。しーん……。
ぽっとん、ころころ。
マオさんの手が緩んで、恕雨露が落ちて転がりました。
「ああっ、大事な神具が!」
いや、そうおっしゃいましても羽巣手戸さま。
どうみても普通のゾウさんジョウロにしか見えないのですが。
しかも百円ショップにもありそうなプラスチックのやつ。
「他の色もあるぞ」
本殿の片隅には、ピンクや黄色。
ジョウロがいくつも並んでいます。
ありがたみがありません。本当に神具なのでしょうか。
面白そうな気配を嗅ぎつけて、猫たちがぞろぞろ集まってきました。
なんだ、なんだ。
なにそれ、なにそれ。
わらわらと本殿の中にお邪魔して、ジョウロを拝観いたします。
「みなの者、話を聞くのだ」
騒がしかった猫たちがぴたりと静まり、羽巣手戸さまの前に行儀よく座ります。
落ち着くのを見計らって、羽巣手戸さまが説明を始めました。

どこにでもありそうに見えるこのジョウロ。
これらは正真正銘、天の恕雨露。
五月節供に空から特別な雨を降らせる神の道具だそうな。
少しでもこの雨がかかった者には、無病息災のご利益がもたらされるとか。
「有効期間は一年ではあるがな」
つまりはお守りみたいな感じですね。
しかし、どうしてそんな大事な神具がここにあるのでしょう。
「一度使ってみたかったから、借りてきた」
えええー、そんな簡単に借りられるものなのー。
どう見てもベランダ菜園用のお手軽ジョウロなんですけど。
うろんな目を向ける猫たちに、羽巣手戸さまが懸命に言いつのります。
「猫が使えるようにサイズを縮めてあるのじゃ」
本当の姿は大きくて金ぴかに輝く神々しいお道具だそうな。
「そして軽さを極限まで追求したらこの形になった」
なるほど。それゆえのプラスチック。
ぞうさんジョウロなのは羽巣手戸さまのセンスでしょう。
故郷の風景を懐かしんでおられるのかもしれません。
「そういうわけで、猫たちよ」
羽巣手戸さまが凛とした声で告げました。
「ドラゴンライドの折に、これで空から神水を注ぐのだ」
恕雨露の貯水量は軽さそのまま無限大。
たっぷりと地上に恵みをもたらすことができます。
「飼い主ちゃんちにも降らせていいかな♪」
きなこちゃんがピンクの恕雨露を大事そうに抱えて尋ねました。
「構わぬぞ。ただし見つからぬようにな」
わあい。きゃあきゃあ。
猫たちがめいめいに好みの恕雨露に手を伸ばします。
お魚レースの後の楽しみに、さらに楽しみが加わりました。
今年の五月節供は特別ですよ。

ひっそりこそこそ、おとな組の内緒話。
「いくらなんでも、こんな簡単に借りられる?」
「あー、暦の関係かもしれないねえ」
むか~しむかし、陰暦五月五日は今の六月。
今年は6月24日です。
「神具の点検を兼ねて、みたいな?」
天の事情、真相は『神のみぞ知る』なのでした。
^ーωー^ どっとはらい。

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