ハロウィンが近づいています。
秋の収穫祭の集大成。夜の生き物と不思議なモノたちの祭典。
ねこ森町でも毎年どんちゃか祭りが開催されています。
10月に入ってすぐのことでした。
ねこ森町の王であるOさまがみんなを集めて言いました。
「猫のみなさんに依頼がきたのですよ」
Oさまの足元にはまるい目籠(めかご)がころん。
小さなメロンのように転がっています。
「それはなんですか」
猫たちは首をかしげました。
「目をかっぴらいてよおくごらんなさい」
Oさまのお言葉にみんなが一斉に籠を覗き込みます。
誰かの鼻がこつんと当たり、籠がゆらゆら揺れました。
ゆうらり、ゆうらり。
籠の中で何かがちらっと光るのが見えました。
蛍ほどの光の粒はぼんやりとして。
切れかけの豆電球のように瞬きをしています。
「怪し火のようですが」
年寄り猫がもぐもぐと口を動かして言いました。
「ずいぶん弱っているようですな」
こっくりとOさまがうなずきます。
怪し火(あやしび)。
何かを燃やす火ではなく、ひとりで光るもの。
鬼火、狐火、人魂…。
さまざまな種類があって、さまざまな名前で呼ばれています。
ハロウィンの夜には怪し火たちもねこ森町に集結。
モノリスの野原でダンスを披露してくれます。
大きな火、小さな火。
まぶしい火、やさしい火。
さまざまな色や形の光がくるくると夜空を舞います。
みんながいっとう楽しみにしているイベントです。
しかしこの怪し火には踊る元気どころか。
今にも消えてしまいそうなふぜいです。
心配そうに眺める猫たちにOさまが語ります。
「この子は恵みをもたらすスピリットです」
日本語では『穀霊(こくれい)』
英語ですと『コーンスピリット』
こんなふうに呼ばれるものが有名です。
野にあっては穀物やみずみずしい実。
森にあっては木の実や果物。
そういうものに宿り、生き物たちを養ってくれるのです。
スピリットたちは愛情こめて植物たちを助けます。
がんばって、がんばって。
ようやく実りのときを迎えます。
そのころにはスピリットは力を使い果たしてへとへとです。
けれどそこに集まる生き物たちが。
おいしそうに、嬉しそうに、実りをもぐもぐ頬張ります。
幸せな姿に疲れ切ったスピリットは輝きを取り戻します。
そうしてハロウィンの夜に地上で喜びのダンスを披露して。
その後、空に帰って少し休んで。
また地上に戻ってくるのです。
次の年の恵みをもたらすために。
ところが、この子は。
「不作だったのですよ」
Oさまがしんなりと籠を見下ろします。
きっとスピリットのせいではありません。
いろいろな原因が重なってしまったのでしょう。
このスピリットはがんばりました。
でもダメだったのです。
このままでは空に帰ることもできません。
消えるのを待つばかりです。
「で、鬼火のおやぶんに頼まれましてね」
スピリットに力をあげてほしい、と。
「どうすればいいですか」
春生まれの子猫がたずねました。
必要なのは幸せな笑顔と、愛情をたっぷり。
あなたがいてくれてよかった。
嬉しい、という気持ち。
「まさに猫の得意分野ではありませんか」
Oさまがえへんと胸を張りました。
猫は愛情をもらうのが上手です。
だから愛情というものを知っています。
幸せになるのが上手です。
だからだれかを幸せにするやり方が分かります。
そうだね、そうだね、と猫たちが顔を見合わせました。
Oさまは満足そうに笑っています。
そうしてみんなをぐるりを見渡して言いました。
「でわでわみなさん」
Oさまのふさふさしっぽの陰からころんころん。
たくさんの籠が転がってきました。
猫たちはあっけにとられました。
え、こんなにいるの?
「期限はハロウィンまで。期待していますよ」
そんなわけで。
おとな猫はひとりでひとつ。
子猫にはおとな猫がつきそって。
猫たちはスピリットたちのお世話をしているのです。
もしも猫と仲良くしている人間のところで不思議なことが起こったならば。
それはスピリットが元気になりつつある証拠かもしれません。
****
あれえ?(°_°
なんで今ごろトマトが(°_°;
^ーωー^n みんな、がんばってる?