昔々、まだこの社会が近代的な発展を遂げるずっと前のことです。
とある国の支配者である王の配偶者が窓辺で刺繍をしていました。縫い物や刺繍が女の仕事だから、というわけではなく、王妃と呼ばれる立場であったその女性はその作業を愛し、自分の手で古い布製品をよみがえらせたり新しい作品を作り上げることに喜びを感じていたのです。
折しも季節は冬。白い雪が抜け落ちた羽毛のようにふわふわと空に舞っておりました。ふと気づくと雲は切れ、雪はきらきらと輝き、手に持った黒檀の刺繍枠がつやつやと陽光を反射しています。自然が作り出す造化の妙に見とれた女性は不注意から持っていた針で指を突いてしまいました。
指先からにじみ血が、磨き上げた鉱石のような赤い玉を作ります。
王妃と呼ばれる女性は言いました。
「ああ、雪のように白く、血のように赤く、刺繍枠の木のように黒い子供がいたらよかったのに!」
それからしばらくすると、女性はひとりの子どもを生みました。王の子でもありましたので、新生児は生まれるとすぐに自分の意思とは関係なく『王女(プリンセス)』という称号を与えられました。『プリンセス』は王妃が願ったとおりの外見を持っていました。
すなわち、毛髪は雪のように白く、瞳は血のように赤く、肌は黒檀のように黒かったのです。
親である王と王妃はメラニン色素の少ない体質に属する者たちでしたから、DNAがどうのとか、さまざまな議論が起こってもおかしくない状況でした。けれどもふたりは深い愛情と信頼で結ばれていましたし、容姿に偏見のない人物でしたので、王妃の願望が強く作用した結果であろうと思い、その誕生を心から嬉しく思ったのでした。
そして、生まれた子に
『天高くそびえる山の頂に輝く白き雪と情熱を秘めた赤き血潮と大地に根を張るたくましき黒檀の姫』
という名をつけました。
しかしあまりにも長すぎるので、世の人々はいつしかその王女を『白雪姫』と呼ぶようになったのでした。
…………以下略。
☆☆☆
ちまたで話題のポリコレ。
*ポリティカル・コレクトネス(Political correctness)。
人種・民族・宗教・性別・職業その他もろもろの違いによる偏見・差別を助長することを防ぐため、中立的な表現や用語を用いること。
(日本語訳:政治的な正しさ・政治的妥当性)
ディズニー映画にポリコレ要素が盛り込まれて大騒ぎになったそうです。
例】ピノキオ、リトルマーメイド、ピーターパン、白雪姫。
あ、「トイストーリー4」もでしたっけ。
ディズニーだけではありません。
「スーパーマン」の息子さんには日系男性の恋人ができたとか。
まあそれは別に構わないんですが。
あまりに一気に流行的な波が押し寄せてきたので消化不良の感は否めません。
そういや30年くらい前にも話題になりましたっけ。
行き過ぎたポリコレを皮肉った書籍を買った記憶が…。
本棚ごそごそ。
ありませんね。どっかの高校に寄付したようです。
※これです。
ジェームズ・フィン・ガーナー著/政治的に正しいおとぎ話
有名な童話に含まれる差別的(と非難されがちな)表現を改めて、コレクトリーに書き換えておられます。
翻訳にデーブ・スペクターさんが関わっておられるのが時代ですねえ。
「白雪姫」もありましたよ。
改変されたタイトルがすごい。
「白雪姫と七人の小人」
↓ ↓ ↓
「雪のように白いという有色人種差別的な名前の王女と七人の垂直方向にチャレンジされた男性たち」
中身もこんな感じでとても回りくどかったような。
読んでいて笑いました。
が、疲れました(ー_ー;
世の中の童話が全部こんなのになったらイヤです。
原作はヘタに改ざんしない方がいい。
長く愛されているものには理由があると思うのです。
「あ、あのお話が基になっているんだ!」
と分かる作品を新たに作った方が受け入れられやすいのでは。
早い話がパロディですね(°_°
そんなわけで、試しにちょろっと書いてみました。
私自身、あまりポリコレな人間ではありません。
差別的な表現が残っていることをお詫びいたします。
書き逃げ御免。