たった二間の小さな離れ屋。
庭に面したL字型の廊下が、ダイちゃんの居場所だ。
戸が開いていても部屋の中には入らない。
私が朝ごはんを用意するのを、敷居の向こうでじっと待っている。
「懐いてきたら、そのうち恋人を連れてくるよ」
と、友人が言った。
全身に草の実をくっつけて、鼻の横は涙で黒ずんで。
こんな小汚いオス猫を好きになってくれる、奇特な女のコがいるだろうか。
それに、この辺りで見かけるのはオスばかりだ。
「子どもが生まれたら、見せに来るかも」
恋人はともかく、せめて他の人間に嫌われないよう毎日ブラシをかけて顔を拭いた。
努力の甲斐あって、少しずつダイちゃんは小ぎれいになり、
毛づやが良くなっていった。
そうして、友人の予言は現実となった。
☆☆☆
五月の半ば。ダイちゃんが痩せた。
きちんとごはんをあげているのに。
ダイちゃんは、カリカリのトッピングに入っている煮干しが苦手だ。
細かく砕いてやれば食べるが、頭を残す。
ダイちゃんとすれ違いになった日には、お皿にカリカリを山盛りにしておく。
少しその場を離れて、戻ってきたらお皿が空っぽになっていた。
挨拶もなしに出ていった?
今までそんなことなかったのに。
補充する。
なくなる。
補充する。
なくなる。
煮干しの頭もきれいになくなっている。
これは、おかしい。
ボリボリと廊下の奥から音がする。
足音を盗んで確かめに行く。
――――見知らぬ猫と目が合った。
ダイちゃんのガールフレンドは、
ふたりいた。
ノラ猫だろうか。
食に対する執着がすごい。
ダイちゃんのごはんが
全部食べられてしまう。
私の目の届くところに
ダイちゃんのお皿を移動しよう。
ダイちゃん…………。
もうちょっとがんばれ。
☆☆☆
ダイちゃんのガールフレンドたちに、呼び名をつけた。
ウチの子にするつもりはないので、仮の名前だ。
そもそも、ダイちゃんが私の相棒になったのもつい最近なのだ。
茶と黒が混じった微妙な色合いの猫は『チビたん』。
初めて見たとき、生後半年くらいの子ネコかと思うくらい小柄だった。
ダイちゃんの本命はたぶんこちらだ。
白に灰色の猫は『ブチさん』。
美猫さんだ。
どこかの飼い猫、もしくは飼い猫だったことがあるかもしれない。
チビたんもブチさんも、いつも飢えている。
がつがつしている。
食べても、食べても、まだ食べる。
あんなに食べているのに、太る気配がない。
それどころか、どんどんやつれていくような気がする。
おかしい。
やられた!
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